初版発行日から15年。初出連載からすでに20年経ってもなお、この書の内容は考えさせられる。序文には「この本の読者として期待されているのは『これから病気になるひとびと』そして『これから老いるひとびと』である。希望と目的を持って生き、尊厳を保ちつつ老い、死んでいきたいひとびと」とある。やはり20年前には切実に読むことは出来なかったに違いない。
 業界紙らしきものに連載されたものをまとめた本書には、表題のごとく「よい病院」が提示されている。そこには当然そこで働く「よい人たち」が描かれている。生と死を巡る諸問題は、いや人間の命題は、思いのほか軽やかで時にはユーモアさえ感じられるようにも描かれる。名作漫画「ブラックジャックをよろしく」の作者も本書を読んだのではないか。
 また、著者の観察はこんなところにも及ぶ。以下は引用。

老人ホームに芸人が慰問にくる。老人ホームにくるくらいだから率直にいって一流ではない。それでも老人たちは熱心に見聞きする。拍手する。ときには涙を流して感動する。芸人も感極まって、ともに手をとりあって泣いたりもする。しかし芸人が帰ったあと、職員が、ほんとにそんなによかったの、と尋ねると、せっかくきてくれたんだからさ、という。でも芸はヘタだったね、と冷静に評価し、なぜヘタなのか分析的に説明まで加えたりするのである。老人は長い人生経験に基づいた筋金入りのリアリストである。…

 これで私の長年の疑問のひとつが解けたのである。