本当の優しさとは?

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 キャロル・キングの『つづれおり』に対する過剰な思い入れが作者にはあるらしく。そのモチーフによって描かれる70年代を回想させる物語。内ゲバに巻き込まれて姉を失った主人公の彷徨が痛ましい。姉と同じ軌跡を生き、精神を病んでいくところでは、読むのが辛く、本を何度も閉じた。
 終章において、平凡な結婚をし、幸せを回復する過程にほっとした。キノコ狩り、居酒屋「恋瀬」が本当にあれば、私もそのカウンターで呑んでみたい。

 店のカウンターでビールを飲んでいたある日、私は完全に解き放たれている自分を感じた。二人の死やセクト内ゲバや精神の病や、そんなすべてのものから自分は解放されているのである。
そう感じたとき、驚きのあまり私は座っていた椅子から一瞬、ずり落ちそうになってしまった。
しかし、それだけであり、それがすべてであった。
 自分は自由を手にしている。
 それを手にし、謳歌していた。
 誰に与えられたわけでも導かれたわけでもなく、私にとってイデオロギーの果ては、一本の古びた木のカウンターにあったのである。