端正なる探偵小説
- 作者: 打海文三
- 出版社/メーカー: 徳間書店
- 発売日: 1996/05
- メディア: 単行本
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馳星周の文庫版解説に曰く。
打海文三の描く人間たちは、みな、心優しい。主人公であれ脇役であれ敵役であれ、一様に心優しい。ただし、闇雲に優しいわけではない。その優しさには深い思惟の痕がある。薄汚れた世間に身を晒し、人の心の暗黒を垣間見せながら、それでも他者に優しくあることを選び取った人間だけが持つものだ。
打海文三の書く現実は現実であって現実ではない。彼がかくあれと願っている現実だ。彼の願いは祈りにも似ている。その祈りがわたしの心を打つのではないか。
打海文三の小説はハメットのように厳しくはない。かといってチャンドラーのように甘いわけでもない。騎士を気取った男の誇りや気概や友情があるわけではない。こすっからく、ときには悪どく、それでいて他人を思いやる気持ちも持ち合わせている―わたしたちの周りにいるのと変わらない人間が描かれているだけだ。…