後退戦の時代を懐かしく

にくいあんちくしょう―異端カリスマ列伝 (ちくま文庫)

にくいあんちくしょう―異端カリスマ列伝 (ちくま文庫)

 著者は、私と同い年である。この列伝に登場する「規格外人間」たちのことは懐かしく思い出される。
 解説の鹿島茂によると、

 人との出会いも才能のうち、そんな気がしてくる本である。
 私は職業柄、これまでたくさんの伝記や自伝を読んできたが、その経験から一つ言えることは、人と人との出会いには「偶然という名の必然」が働いているということである。
 つまり、出会うべき運命にある人同士は、一見すると偶然であるかに見えても、実は、必然的に出会うということだ。
 しかし、この本の著者の場合、最初は、そうした出会いの機会をあらかじめ封じられたという思いが強かったようだ。なぜなら、世代的に、戦争にも、学生運動にも、ビートルズにも、三島由紀夫にも間にあわず、本来なら出会うことができたかもしれない大物たちとは永遠に隔てられていると感じる「遅れて来た青年」の一入だからだ
 著者が大学に入学した一九七五年から一九七八年にかけての時代は、いま思えば、祭りのあとの空虚さのみが残った、やりきれない後退戦の時代だったと思う。