マクシム、どうだ青空を見ようじゃねえか

菅原克己全詩集

菅原克己全詩集

 「遠い城―ある時代と人の思い出のために」菅原克己
 これは繰り返し読む本。自分をささえる本。勇気を貰う本。来し方行く末つらつら思う歳末。
 亡くなったT君が一日で読んで返しに来て感想を述べた本です。つまり彼も感激したのだな。
 「国の認めない人間国宝」の高田渡「ブラザー軒」も菅原さんの詞だ。
 その菅原さんの詩の一節を引いてみたい。

 マクシム

誰かの詩にあったようだが
誰だか思いだせない。
労働者かしら、
それとも芝居のせりふだったろうか。
だが、自分で自分の肩をたたくような
このことばが好きだ、
〈マクシム、どうだ
 青空を見ようじゃねえか〉


むかし、ぼくは持っていた、
汚れたレインコートと、夢を。
ぼくの好きな娘は死んだ。
ぼくは馘になった。
馘になって公園のベンチで弁当を食べた。
ぼくは留置場に入った。
入ったら金網の前で
いやというほど殴られた。
ある日、ぼくは河っぷちで
自分で自分を元気づけた、
〈マクシム、どうだ
 青空を見ようじゃねえか〉


のろまな時のひと打ちに、
いまでは笑ってなんでも話せる。
だが、
馘も、ブタ箱も、死んだ娘も、
みんなほんとうだった。
若い時分のことはみんなほんとうだった。
汚れたレインコートでくるんだ
夢も、未来も…。

言ってごらん、
もしも、若い君が苦労したら、
何か落目で
自分がかわいそうになったら、
その時にはちょっと胸をはって、
むかしのぼくのように言ってごらん、
〈マクシム、どうだ
 青空を見ようじゃねえか〉
       (詩集『遠くと近くで』より)