時計を忘れて森へいこう (クイーンの13)

時計を忘れて森へいこう (クイーンの13)

 ポール・ラッシュ記念センターは、観光シーズンの清里とは思えないほど静かな空間だった。晩年の暮らしのままを公開しているポール・ラッシュ邸の居間では、財団法人キープ協会(小説では「清海のシーク協会」)の自然解説指導員(レンジャー)らしき方が、来客と談笑しているところだった。我々にもお茶を勧めてくださったのだが、残念なことにお姉ちゃんを小淵沢駅まで送って行く時間が迫っていたので、次回を期すとするか…。季節はずれに小海線清里駅なら寅次郎気分にも浸れそうだ。
 再読ですが、第三話で再び涙…。清里へ行く方にオススメします。

「わたしね、ネッシーはいてほしいと思うの」
 三つも駅が過ぎたころにようやくそういったとき、護さんはふわりとほほ笑んで先を促した。このひとは考え込んだあげくどれだけ唐突に話を始めても、決して途感ったりしない。
 「ネツシーはいてほしいし雪男もいてほしい。天使や妖精や河童や天狗はきっといると思うし、幽霊は、そうね、あんまりいてほしくないけど、でも幽霊も出られないような世界には住みたくない。幽霊が出るだけの暗がりもないような世界なんて、すごく住み心地が悪いと思うから。……わたしのいってること、わかる?」
 「ええ、よくわかります。わかってると思いますよ」
 「よかった。だからそれと同じように、生まれかわりというのもあってほしいの。自分の前世が何だったかなんてあまり気にならないけどね」
(略)
「僕も賛成です。生まれかわりを信じるというのはきっと「祈り」なんですね。愛するものの生が道半ばでで断ち切られたとき、もう一度チャンスが与えられたらと思わない人はいないでしょう。生まれ変わりを信じることがその人にとって癒しになるならそれは大切なことだし、そういう意味では生まれ変わりはあってほしいと思う。だけど……」
 戻っておいで……戻っておいで。もう一度。なぜだか不意に、そんな言葉が心の中にこだました。