スズキさんという題名

ひとがた流し

ひとがた流し

 やはり北村薫については、特別な気持ちになる。この書が刊行されてから一年が経つ。新聞連載の小説であることも知っていた、あらすじも書評などで、知っていたし。いつかは必ず読むだろう作品ではあった。もうミステリーは書かないのかという寂しさを感じるファン心理もあった。
 でも、読むときが来たのだ。長女の知り合いがとてもいい小説だと思うと伝えられた。そりゃそうだろう。「夜の蝉」や「秋の花」「時の三部作」の作者だもの、悪かろう筈もない。そうして読んでみた。寝る前に読み始めたのが、よくなかった。読み次いで朝まで読んでしまった。51歳の親父の涙。
 先年亡くなったTBSの久和ひとみキャスターの顔も浮かんだ。ただ各章の題名だけが、ミステリー風に読み進めていくと分かる仕組み。うまいなあ。ずるいなあ。